このシリーズでは初心者向けに比較的簡単な操作でできるボーカルミキシングの紹介をしています。
前回はボーカルミキシングをするうえで必要な準備についてお話ししましたが、第2回目はミックスのために必要なボーカルトラックの処理についてお話しします。ボーカルトラックの処理はボーカルを目立たせ、なおかつ曲と違和感なく一つに融合させるために綺麗な状態にする工程です。
- 下処理
- 音量調整(オートメーション)
- ノイズの除去(ノイズカット)①低音
- ノイズの除去(ノイズカット)②無音部分の処理
- エフェクトをかける
- ProChannelプリセットを使う
- VX-64 Vocal Stripを使う
- 次回:仕上げと書き出し
- 関連記事まとめ
下処理
ここでは【ボーカル1】トラックに『音量調整』と『ノイズの除去』のみ行います。今回出番のない【カラオケ】トラックはミュートにしておきます。
ボーカルトラックの処理前の準備が終わっている前提で進みますので、終わっていない場合は、こちら記事をご参照ください。
ボーカルミキシングの準備
音量調整(オートメーション)
ボーカルトラックの下処理としてまず最初に音量調整を行います。これはエフェクトをかける際、エフェクトのかかり具合のばらつきを減らすためのもので、なるべく音量のばらつきが小さくなるように調整します。
今回ここではオートメーション機能を使った音量調整を行います。オートメーションはトラックやクリップに対して動的にパラメータを変更する機能で、ここではゲインに対してオートメーションを適用します。
①「クリップ」をクリックし「クリップのオートメーション>Gain」を選択します。
②音声調整ができました。
音声調整は「クリップのオートメーション(Gain)」以外の方法も
音量を調整するオートメーションは、今回使用した「クリップのオートメーション(Gain)」のほかに「オートメーション(Volume)」があります。
クリップのオートメーション(Gain)を採用した理由は、最近のアップデートでリアルタイムに波形が更新されるようになり調整がしやすくなったからです。
しかし調整しやすくなった反面、気を付けなければならないこともあります。
Volumeはトラック内のエフェクトがかかった後に音量調整するのに対して、クリップのGainはエフェクトの前に音量調整がされます。そのためエフェクトのかかり方が両者で変わる関係上、注意する必要が出てくるのです。
ノイズの除去(ノイズカット)①低音
ノイズの除去はエフェクトを使用して行います。ここではさまざまなエフェクトがかけられる「ProChannel」というプラグインを使います。
ProChannelはトラック・バスごとに始めから組み込まれており、イコライザ・コンプレッサ・リバーブなどを自由に組み合わせて使うことができます。
ここでのEQは『録音時の不要な音のカット』『後工程でのエフェクトをかけやすくする』2つの目的で使用されています。
ProChannelの使い方について
①【ボーカル1】トラックを選択し、画面左の「ProChannel 表示/非表示」(電源マーク)をクリックして「ProChannel」タブを開きます。
②「ProChannel」タブ直下の「Global On/Off」(電源マーク)をONにします。
③「Global On/Off」の下にある「EQ」の電源マークもONにします。
※ここではEQ以外使用しないため、邪魔であれば削除しましょう(エフェクト名のところで右クリックし「モジュールを削除」を選択)
④「EQ」すぐ右にある「ズームウィンドウを開く/閉じる」(▶▶)マークをクリックし、「EQウィンドウ」を開きます。
③「HP(ハイパスフィルタ)」をクリックしてON状態にします。「Slope(傾き)」ノブ(つまみ)をクリックしながら24以上に回して設定します。下の「Freq(カットオフ周波数)」も同様にクリックしながらノブを回して60Hz以上を目安に設定しましょう。
この状態で音を再生すると、EQの画面にボーカルの周波数分布が表示されます。音と画面を確認しながらノイズを除去していくといいでしょう。
再生時にズームウインドウが消えてしまう
EQをかけて再生するズームウインドウが閉じる場合があります。再度④を行うとズームウインドウが表示されますが、ウインドウ右上のピンをクリックすることでズームウインドウを表示のまま固定できます。
ノイズの除去(ノイズカット)②無音部分の処理
無音部分(歌っていないとき)のノイズの除去は『指定箇所の波形をカットやオートメーションで調整する』方法のほかに『エフェクトを使用する』方法があります。
①ProChannelの空いているところで右クリックし「モジュールを挿入>StyleDial FX>GATER」を選択します。
②「ゲート(一定レベルの音のみ通す)」エフェクトが挿入されるので、これを「EQ」の下に配置します。
ノブを回すと音を通すレベルが変更できるので、ボーカルが不自然に消えないレベルまでノブを回してノイズの除去をしていきます。
強くかけすぎるとブレスやアタック(声の立ち上がり)やリリース(声の余韻)がなくなってしまうので注意が必要です。
エフェクトをかける
下処理まで終わったら次は【ボーカル1FX】トラックにエフェクトをかけていきます。
cakewalkに付属されているエフェクトのみでミックスしていくのでプラグインの説明は、過去の記事を参考にしてください。
オーディオエフェクトの紹介(VSTほか)
ProChannelの使い方とモジュール紹介
ここでは2種類の方法を紹介します。
※音源やどんなミックスにしたいかで設定値が変わるため、それについて触れず進行します。
ProChannelプリセットを使う
cakewalkのProChannelにはプリセットが用意されています。
「Global On/Off」(電源マーク)左のボックスにカーソルを合わせると「プリセットの読み込み」(フォルダアイコン)が表示されます。これをクリックして「Vocals」から始まるファイルを読み込んで編集する方法があります。
また、個別のエフェクトにもプリセットがあります。下の画像だと「EQ」の左端アイコンをクリックするとプリセット一覧が表示されます。
おすすめはProChannelのプリセットを使って、エフェクトの並び方のバリエーションを学び、エフェクト毎のプリセットではエフェクトのパラメータ設定とその時の音を学ぶと良いでしょう。
慣れてくるとProChannelが空の状態からプラグインを選択してパラメータ設定するほうが早くなってきます。
VX-64 Vocal Stripを使う
cakewalkになる前(SONAR時代)は『VX-64 Vocal Strip』というボーカルに特化したエフェクトがありました。cakewalkになってからはエフェクトのリストから除外されていましたが、実はまだ使うことができます。
VX-64 Vocal Stripの表示方法
(ProChannel上でもできますが)Volume調整がある側のFX欄で説明します。
①FX欄を右クリックし「FXChainプリセットの挿入」を選択してProChannelフォルダ内の「Doubler.fxc」を開きます。
②「Doubler」を右クリックし「FX Chainプラグインを展開」を選択します。
③FX Chainプリセット「Doubler」から「VX64_VocalStrip」プラグインに分解され表示が変化したのを確認して、ダブルクリックすると『VX-64 Vocal Strip』画面が開きます。
VX-64 Vocal Stripについて
VX-64 Vocal Stripはボーカルの音調整に必要な機能が1つになったエフェクトで、プリセットも豊富にあります。機能について簡単に説明すると以下の通りです。
DEESSER:
特定の狭い周波数にのみにコンプレッサーをかけられるエフェクターです。主に耳障りな歯察音を弱めるために使用します。
COMPAND:
コンプレッサー(大きい音を圧縮)とエキスパンダー(小さい音を更に小さく)が合わさったエフェクターです。
TUBE EQUALIZER:
サチュレーション付きイコライザーです。帯域毎のサチュレーションON/OFFができます。
DOUBLER:
入力音声のダブリング効果を生みます。原理は音を複製させてディレイをかけることでピッチ変調をしているらしいです。
DELAY:
ディレイエフェクト。
VX64 VocalStripにはリバーブがないため、リバーブを追加します。リバーブやディレイなどのエフェクトはセントリターン(別トラックに音を送りそこでエフェクトをかけて元のトラックと合成する)という方法を用いることも多いですが、今回は使用するプラグイン側である程度パラメータが用意されていることや他のトラックとリバーブを共有しない理由から、直接エフェクトをインサートします。
FX欄で右クリックして「オーディオエフェクトの挿入>Reverb>BREVERB 2 Cakewalk」を選択します(エフェクトの順番は①VX-64 Vocal Strip→②BREVERB 2 Cakewalkと並べます)