ボーカルミキシングは音楽制作の中で非常に重要です。歌声は楽曲の中心的な存在であり、聴き手の感情に直接訴えかけるものです。しかし、録音された生の歌声は、そのままでは必ずしも理想的な状態とは言えません。
この記事ではDTM初心者にも比較的簡単にできるボーカルミキシングの手順を解説します。プロジェクト作成からトラック設定のほか、ノイズ除去やエフェクト追加・書き出しまでステップバイステップで分かりやすく説明しています。
- 1. 新規プロジェクトの作成
- 2. トラックとバスのルーティング
- 3. 頭出し(カラオケトラックとボーカルトラックの位置合わせ)
- 4. ボーカルトラックの音量調整とノイズ除去
- 5. ボーカルトラックにエフェクトを追加
- 6. バスの処理
- 7. 書き出し(エクスポート)
- よくある質問(FAQ)
- Q. 新規プロジェクト作成時に、テンプレートは必ずBasic.cwtを使うわないといけませんか?
- Q. 曲のBPMが分からないときはどうすればいいですか?
- Q. 複数のボーカルトラックをまとめるためのバスは本当に必要ですか?
- Q. パッチポイントとバスって何が違うのでしょうか?
- Q. ノーマライズはいつしますか? 音割れの心配はないですか?
- Q. ボーカルのノイズ除去でProChannelのEQを使う理由は何ですか?
- Q. Gater(ゲート)でブレスが消えてしいます。どう対処すればいいですか?
- Q. Cakewalk標準でボーカル専用のノイズ抑制プラグインはありますか?
- Q. ProChannelプリセットとVX-64 Vocal Strip、どちらを使えばいいでしょうか?
- Q. VX-64 Vocal StripがCakewalk上のメニューに出てきません
- Q. マスターバスにエフェクトをかけるタイミングが分かりません
- Q. Boost11をかけると音がペタッと潰れてしまいます。対策はありませんか?
- Q. エクスポート時にMP3のビットレートはどれくらいが良いですか?
- Q. 書き出したファイルを再生すると音量が小さく感じるのはなぜですか?
- Q. Cakewalk初心者がボーカルミキシングで失敗しやすいポイントは?
- 関連記事まとめ
1. 新規プロジェクトの作成
この章では、新規プロジェクトの作成からBPM(テンポ)設定の手順を説明します。
Cakewalk by BandLab の初期設定については、こちらの記事で詳しく解説しています。
1.1 テンプレートから新規プロジェクトを作成する
Cakewalk By Bandlabを立ち上げ、Cakewalk Start Screen画面から「新規プロジェクト」>「Basic.cwt」を選択します。
プロジェクトの作成後、使わないトラックとバスをすべて削除します。
1.2 曲のBPM(テンポ)を調べて設定する
ボーカルミキシングの準備として、まずプロジェクトのBPMと曲のBPMを合わせます。これによってエフェクトの同期やオーディオの編集がやりやすくなり、作業の効率を向上につながります。
テンポはコントロールバーの数値(下の図で「180.00」と表示されている部分)をクリックし、任意の値を入力すると変更できます。
原曲のBPMはネットで事前に調べておきましょう。情報が見つからない場合は、Cakewalkの機能を利用して半自動でBPMを探れます。
Cakewalkを使用してBPMを探る方法は『3. 頭出し(カラオケトラックとボーカルトラックの位置合わせ)』を参照してください。
2. トラックとバスのルーティング
この項目では以下のトラックを作成していきます。
- マスター(バストラック):すべてのトラック・バストラックが混ざった最終出力
- ボーカル(バストラック):すべてのボーカルトラックを合成するトラック
- カラオケ(トラック):カラオケ音源のトラック
- ボーカル(トラック):各ボーカルの音源トラック
- ボーカル(パッチポイント):各ボーカルのFXトラック
Cakewalk by BandLab におけるトラックとバスの基本については、こちらの記事で詳しく解説しています。
2.1 マスターバスとボーカルバスの作成
作業の流れとして、最初にボーカル用のバスとマスターバスを作成をします。
オーディオトラックは通常「音源→オーディオトラック→マスターバス→スピーカーなどの外部機器」の順で出力されます。バストラックは複数のオーディオトラックを1つにまとめるために使用されます。
例えば、ボーカルトラックがAメロ・Bメロ・サビ用と分かれている場合、バストラックを使用して1つにまとめることで、各パートの音量バランスの調整や全体に共通のエフェクトをかけられます。
ここでは音の流れを以下のように設定します。
- ボーカルトラック→ボーカルエフェクトトラック→ボーカルバス→マスターバス
- カラオケトラック→マスターバス
トラックビューでは、上部に「トラックエリア」、下部に「バスエリア」が配置されています。
1.マスターバスとボーカルバスの作成
バスエリアで右クリック後に「ステレオバスの挿入」を選択します。この操作を2回行い、それぞれの名前を「Master」と「Vocal」に変更します。
2.「Master」のアウトプット設定
「Master」バスをクリック後、画面左下の「In/Out」からデバイスの出力チャンネルを設定します。これによってMasterに送られた音が最終的にオーディオインターフェースから出力されるようになります。
3.「Vocal」のアウトプット設定
「Vocal」バスを選択し、出力先を「Master」にします。これによってVocalバスからの音がマスターバスへと送られるように設定されます。
2.2 カラオケとボーカルのトラック作成
■カラオケファイルとボーカルファイルの読み込み
Windowsのエクスプローラからカラオケファイルとボーカルファイルをドラッグ&ドロップし、それぞれ名前を「カラオケ」と「ボーカル1」に変更します。
以下はステレオトラックを読み込んだ場合の例です。
モノトラックにステレオ用プラグインを使用する際は、フェーダー付近の「ステレオ/モノ」でステレオに切り替えますが、設定が無効になることがあります。そのためCakewalkでオーディオ処理する際にはボーカルトラックもステレオで扱うユーザーもいます。
ファイルを読み込み後、カラオケトラックをMasterバスへ送ります。カラオケトラックを選択し、左下の「In/Out」を「I:なし」と「O:Master」にします。
2.3 ボーカルエフェクト用のトラック作成
エフェクト設定を単純化するため、ボーカル1トラックの「In/Out」のOutをクリックして「新規パッチポイント」を選択します。これによって下処理と音作り処理のトラックを分けてエフェクトを適用します。
パッチポイントはプロジェクト内でオーディオの信号の流れを自由に変更できる機能です。バストラックと同様に複数のトラックをまとめるために作成しますが、トラックエリアに直接配置できる点が異なります。
トラックビュー上で「オーディオトラックの挿入」をクリックし、追加したオーディオトラックの名前を「ボーカル1FX」に変更します。
「In/Out」のIn(I)をクリック後し「パッチポイント1」>「パッチポイント1:Stereo」を選択します。同様にOut(O)も「Vocal」に変更します。
- 「ボーカル1」トラック:ボーカル録音データの前処理用(ノイズ除去、音量調整など)
- 「ボーカル1FX」トラック:ボーカル音源に対するエフェクト処理用
- 「Vocalバス」:複数のボーカルトラックを一元化し、共通の後処理をする
2.4 音出しチェック
作業の経過で適宜音出しを行い、ボーカルとカラオケ音源が想定どおりに再生されるか確認します。カラオケトラックの音量を-5dB程度に下げると、ボーカルとのバランスが取りやすくなります。
段階を追って音出しチェックをすることでミックスダウン前の準備状況を把握できます。これによって問題点を早期に修正でき、最終的な音作りに望めるでしょう。
3. 頭出し(カラオケトラックとボーカルトラックの位置合わせ)
3.1 曲のBPMを探る
場所:「表示」>「AudioSnapパレット」
CakewalkではAudioSnap機能を使用して曲のBPMを解析できます。メニューバーの「表示」>「AudioSnapパレット」をクリックします。
【ショートカットキー】AudioSnapパレットを開く:
Cakewalk by BandLabにはAudioSnapパレット以外にも多くのショートカットキーが用意されています。ショートカットキーを活用することで、作業時間を大幅に短縮できます。
トラックビューでカラオケトラックを選択した状態で「AudioSnap」の電源アイコンをクリックすると「平均テンポ」に解析結果が表示されます。
コントロールバーのテンポ欄に解析されたテンポを入力します。
3.2 カラオケのBPMとプロジェクトのBPMが合っているか確認
※以下の操作は、カラオケトラックとボーカルトラックの頭出しがされている状態で行うと、再調整が必要になる場合があります。カラオケトラックとボーカルトラックの両方を選択した状態で操作してください。
コントロールバーの「Snap」をOFFにします(Snapの文字上にあるグリッドアイコンをクリックでON/OFFが切り替わります)
カラオケからアクセントがある位置を探します。通常これは小節の開始位置や波形が急激に大きくなる部分です。Altキーを押したままスクロールバーを操作すると横方向の拡大縮小ができるので、この機能を活用すると良いでしょう。
ここで波形を切断します。Altキーを押したまま左クリックで波形を切断します。
「Snap」をONにして分解能(目盛)を1/4にします。
下の図の例に従い、小節の先頭(例えば10)に波形の開始点を合わせます。
下の図の右上にある再生ボタン(▶)をONにします。これをONにすると、曲を再生した時にテンポを確認できるクリック音が聞こえます。
曲の後半(例えば40小節ほど先)で再生し、バスドラムやシンバルなどの小節頭の音がメトロノームの打ち込みタイミングと合っているか確認します。もし合っていればBPM設定は正しいと考えられます。しかし複数箇所で確認しても合っていない場合、BPMを少しずつ変更しながら適切な値を探し直す必要があります。
切った波形を元に戻します(波形の切り口をドラッグし左側へ移動させると波形が元に戻ります)
この際、小節位置がずれないように波形先端をスナップオンの状態(1/4拍設定)で移動させましょう(※下の図のようなイメージ)
3.3 ボーカルトラックのノーマライズ(音量上げ)
場所:ボーカルトラックを選択状態で「プロセス」>「エフェクトの反映」>「ノーマライズ」
頭出しの前にボーカルトラックのノーマライズ(音量上げ)をします。
ノーマライズとは音声が歪まない範囲で音量を最大値まで上げる操作で、ボーカルの音量を小さく録音した場合に有効です。
ノーマライズ前
ノーマライズ後
ノーマライズはボーカルトラックを選択した状態で「ノーマライズ」をクリックします。ノーマライズレベルは100%にしてOKをクリックします。
3.4 頭出し(カラオケトラックとボーカルトラックの位置合わせ)
カラオケトラックのBPM確認と同じように「Snap」をOFFにします。基本的には歌い出しに合わせると良いでしょう。
頭出しを終えたら「Snap」をONにし、ボーカルトラックの端をドラッグして小節に合わせます。誤ってボーカルトラックをずらしても「Snap」機能で元に戻しやすくなります。
ここまでがボーカルミックスの準備となります。
4. ボーカルトラックの音量調整とノイズ除去
ここからはミックスに欠かせないボーカルトラックの処理について説明します。
ボーカルトラックの処理は歌声を際立たせつつ、曲全体と上手く調和させる効果が期待できます。具体的には歌声の不要なノイズを取り除いたり、音量を調整して聞きやすくしたりします。この工程で全体の曲がよりクリアで聴き心地の良いものに仕上がります。
4.1 音量調整(オートメーション)
ボーカルトラックの前処理として音量調整を行います。理由としてはエフェクト適用時のエフェクトのかかり具合のばらつきを防ぐためです。
音量ばらつきを最小限に抑えるよう調整し、オートメーション機能を使ってゲインに対して動的にパラメータを変更します。
オートメーションとは
トラックやクリップのパラメータを時間の経過に合わせて自動的に変化させる機能
Cakewalk by BandLabのオートメーション機能の使い方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「クリップ」をクリックし「クリップのオートメーション」>「Gain」を選択します。
音量が大きすぎる部分のゲインを下げ、小さい部分は上げていきます。音が不自然に聞こえないよう注意しながら、クリップの波形全体の音量ばらつきを小さくしていきます。
今回は波形のリアルタイム更新で調整がしやすい「クリップのオートメーション(Gain)」を採用しました。しかしトラックのオートメーション(Volume)とはエフェクト適用のタイミングが異なるため、エフェクトのかかり方に違いがあり、使い分けには注意が必要です。
トラックのオートメーション(Volume)はエフェクト後、クリップのオートメーション(Gain)はエフェクト前に音量調整を行います。
4.2 ノイズの除去1(ノイズカット)低音
ノイズの除去には「ProChannel」を使用します。ProChannelの詳細な使い方や搭載モジュールについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
ProChannelはトラック・バスごとに始めから組み込まれており、イコライザ・コンプレッサ・リバーブなどを自由に組み合わせて使うことができます(今回のEQは録音時の不要な音をカットし、後工程でのエフェクトをかけやすくするために使用)
「ボーカル1」トラックを選択し、画面左の「ProChannel 表示 / 非表示」(電源マーク)をクリックして「ProChannel」タブを開きます。
【ショートカットキー】ProChannelの表示 / 非表示:
「ProChannel」タブ直下の「Global On/Off」(電源マーク)をONにします。
「Global On/Off」の下にある「EQ」の電源マークもONにします。
※EQ以外のエフェクトを使用しないため、不要であれば削除しても問題ありません。エフェクト名で右クリックし「モジュールを削除」で削除できます。
「EQ」すぐ右にある「ズームウィンドウを開く/閉じる」(▶▶)をクリックし、「EQウィンドウ」を開きます。
「HP(ハイパスフィルタ)」をクリックしてONにし、次に「Slope(傾き)」ノブ(つまみ)をクリックしながら24以上に設定します。また「Freq(カットオフ周波数)」も同様にクリックしながらノブを回し、目安として60Hz以上に設定します。
音を再生すると、EQの画面にボーカルの周波数分布が表示されます。音と画面を同時に確認しながらノイズを除去していくと良いでしょう。
EQをかけて再生するとズームウインドウが閉じる場合があります。ウインドウ右上のピンでズームウインドウを表示を固定できます。
4.3 ノイズの除去2(ノイズカット)無音部分の処理
無音部分のノイズ除去には、波形をカットやオートメーションで調整する方法と、エフェクトを使用する方法があります。
ProChannel上で右クリックして「モジュールを挿入」>「StyleDial FX」>「GATER」を選択します。
「ゲート」エフェクトを「EQ」の下に配置します。このエフェクトはノブを調整することで一定レベル以下の音を通さなくなります。
ボーカルが不自然にならない程度までノブを下げて、ノイズを除去していきます。ただし、ゲートを強くかけすぎるとブレス音やアタック・リリースが失われてしまうので、適切なバランスを保つよう注意しましょう。
4.4 ノイズの除去3(ノイズカット)音声部分の処理
Cakewalkには音声部分のノイズ除去専用のプラグインがないため、別のツールが必要になります。
1つの方法として、フリーのノイズ除去プラグイン「Bertom - Denoiser」があります。このプラグインは周波数ごとにノイズ除去ができるため、比較的微調整がしやすいでしょう。
Bertom - Denoiserのインストール方法や使い方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
5. ボーカルトラックにエフェクトを追加
次は「ボーカル1FX」トラックにエフェクトをかけていきます。
cakewalkに付属されているエフェクトのみでミックスを進めるため、どんなプラグインがあるか知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
ここでは2種類の方法を紹介しますが、設定値は音源やミックスの目的によって変わるため、具体的な設定値には触れずに進行します。
5.1 ProChannelプリセットを使う
CakewalkのProChannelには便利なプリセットが用意されています。
プリセットを読み込むには「Global On/Off」(電源マーク)左のボックスにカーソルを合わせると「プリセットの読み込み」(フォルダアイコン)が表示されます。「Vocals」から始まるファイルを読み込んで編集できます。
また個別のエフェクトにもプリセットがあります。「EQ」の左端アイコンをクリックするとプリセット一覧が表示されます。
おすすめの方法は
1. ProChannelのプリセットを使用してエフェクトの並び方を学ぶ
2. エフェクトごとのプリセットを活用してパラメータ設定とその音を把握する
慣れてくるとProChannelが空の状態からプラグインを選択し、パラメータ設定するほうが早くなります。
5.2 VX-64 Vocal Stripを使う
CakewalkがSONARと呼ばれていた時代では「VX-64 Vocal Strip」というボーカル用エフェクトが搭載され、豊富なプリセットで音調整が便利でした。現在はエフェクトリストから外されましたが、表示方法が残っており利用もできます。
VX-64 Vocal Stripはボーカル処理用のプラグインで、複数のエフェクトが組み込まれています。このプラグインは主に以下のモジュールから構成されており、それぞれの機能を説明します。
- DEESSER:「s」音が強調されすぎている場合に、その周波数帯を特定して抑制
特定の狭い周波数にコンプレッサーをかけられるエフェクター。主に耳障りな歯察音(「s」や「sh」の音)を弱めるために使用。
- COMPAND:均一な音量を保つコンプレッサー(大きい音を圧縮)とエキスパンダー(小さい音を更に小さく)が合わさったエフェクター
コンプレッサーは大きな音量を自動的に抑え、一定のレベルに保つために使用。エキスパンダーは音量が小さい部分をさらに小さくすることでダイナミックレンジを拡張し、音の細部を際立たせる。
- TUBE EQUALIZER:温かみを加えたい場合や、特定の周波数帯を強調または抑制するサチュレーション付きイコライザー
各帯域に対してサチュレーションを個別にオン/オフが可能で、音質の調整に幅広く活用できる。
- DOUBLER:ボーカルに厚みを加えたり、コーラス効果を出す
入力された音声を複製し、わずかに遅延させることで1つの音源が複数存在するかのようなダブリング効果を生み出す。これによってボーカルトラックがより豊かで広がりのあるサウンドに変化する。
- DELAY:奥行きを与えたい場合や、特定のフレーズを強調する
入力された音声に対してエコー効果(反響音)を追加する。ディレイタイム(遅延時間)の調整によって、さまざまな反響効果を生成可能。
■VX-64 Vocal Stripの表示方法
メニューバーの「ユーティリティ」>「Cakewalk Plug-in Manager」をクリックします。
「プラグインの種類」にある「VST Audio Effects(VST)」を選択し「表示するプラグイン」内の「無効のみ」をクリックします。
「登録済みのプラグイン」欄の「PX-64 Percussion Strip」「TL-64 Tube Leveler」「VX-64 Vpcal Strip」を選択した状態(Shiftキーを押しながらクリック)で「表示するプラグイン」にある「プラグインを有効にする」をクリックします。
プラグインが有効になったのを確認してCakewalk Plug-in Managerを閉じます。
FX欄を右クリックして「オーディオFXの挿入」から「VX64 VocalStrip」を選択すると画面が開きます。
下の図は「プラグインレイアウト」が「タイプ別」の場合の例です。
プラグインの場所はプラグインレイアウトによって違うため、探しにくい場合はプラグインレイアウトを使いやすいものに変更すると作業効率がアップします。
VX64 VocalStripにはリバーブがないため、追加します。
FX欄で右クリックして「オーディオFXの挿入」から「BREVERB 2 Cakewalk」を選択します(エフェクトの順番は上からVX-64 Vocal Strip→BREVERB 2 Cakewalkと並べます)
※プラグインにリバーブのMIX量を決めるパラメータがあり、かつ他トラックとリバーブを共有しない理由からセンドリターンではなく、トラックに直接インサートします。
センドリターンとは
エフェクトをかける音を別トラックに送信し、そのトラックにエフェクトをかけた後、元のトラックに戻す手法。
6. バスの処理
ここではボーカルバスとMasterバスの処理を行います。
ボーカルトラックが複数ある場合は、Vocalバスにまとめて共通のエフェクトを適用します。しかし今回はボーカルトラックが1つで、既にエフェクトが適用されているため、追加のエフェクトは使用しません。
6.1 コンソールビューの活用
ミキシング作業を効率化するために「コンソールビュー」を使用します。これは各トラックやバスのエフェクトや音量を一覧できる機能です。
場所:「表示」>「コンソールビュー」
「コンソールビュー」をクリックすると、コンソールビューが表示されます。
【ショートカットキー】コンソールビューの表示:
ProChannelを表示する場合は「ProChannel」の右マーク(▶)をクリックします。
【ショートカットキー】ProChannelの表示 / 非表示:
6.2 Masterバスの処理
■各バスの音量調整
MasterバスのPanが0%・フェーダーが0.0になっているか確認します。Masterバスにおいては、この設定以外で使用することは基本的にはありません。
Masterバスに何もエフェクトを適用していない状態で、出力(Peak)が0dB以下になるようにカラオケトラックとVocalバスの音量を調整します。
エフェクトをかける際、Masterバスへの入力音量が大きすぎると音割れやエフェクト調整が困難になる可能性があります。ここではそれを防ぐための調整を行います。
この調整時には、カラオケトラックとVocalバスの音量バランスを耳で確認しながら調整を進めていきます。
下の図の青枠部分がPeakを表し、この部分をクリックするとPeakの表示がリセットされます。この値がマイナスになるようにカラオケトラックとVocalバスの音量を調整します。
■Masterバスのエフェクト
ここではマスターバスに「Boost11」リミッターを使用します。
Boost11リミッターを含むCakewalk by BandLabの標準プラグインについては、こちらの記事で 詳しく解説しています。
リミッター/マキシマイザーは、音圧(音の密度)を上げるために使用します。音が大きく迫力があるように聞こえますが、強くかけすぎると音質が劣化したり、平坦でメリハリのない音源になるため、慎重に使用します。
MasterバスのFX欄で右クリック後に「オーディオFXの挿入」内の「Boost11」を選択します。
プラグインがある場所はカテゴリー順の場合「Dynamics」>「Boost11」・メーカー順であれば「cakewalk」>「Boost11」で選択できます。
プラグインを探しにくい場合は「オーディオFX」>「プラグインレイアウト」で表示方法を変更できます。
プラグインレイアウトは「カテゴリーで並び替え」「メーカーで並び替え」「タイプで並び替え」の3タイプあり、この中から一番使いやすいものを選びます。
Boost11起動後「BOOST」「OUTPUT」を0.0dBに設定します。これを初期値としてエフェクトをかけていきます。
OUTPUTは起動時に-0.1dBになっており、Masterバスの最後にかけるリミッターとしてはOUTPUTが-0.1dB設定で問題ありません。しかし今回はBoost11を複数かけるため、最後のBoost11以外はOUTPUTを0dBにして使用します。
-0.1dBの理由の詳細は説明しませんが、ミックスダウン以降の処理でのノイズの原因を減らす効果があります。
Boost11使用時に見るべきところ
- 入力に対してBOOSTで設定したゲインを加えた波形。赤く表示されている部分がリミッターによって圧縮される。
- 現在のリミッターのかかり具合。①の赤波形の瞬時値を表示している。
- リミッターによって圧縮されたゲイン値の最大値を表示。過去の①の赤波形の最大値とイコールになり、ダブルクリックでリセットされる。
設定値は③の値が-1.0dB以下になるようにBOOSTのノブを調整するのが良いでしょう。Boost11のリミッター性能が高くないため、強くかけすぎると違和感のある音になります。
強くかけたい場合は、Boost11を複数使い、1つあたりのリミット量を-1.0以下に抑えると、違和感の少ない結果が得られます。
7. 書き出し(エクスポート)
ここからはミックスしたデータを音声ファイルとして書き出す方法(エクスポート)について説明します。書き出しは曲全体だけでなく指定した範囲も可能です。書き出し方法はいくつかあり、それぞれ操作方法が異なります。
Cakewalk by BandLabのオーディオエクスポート機能については、こちらの記事で初心者向けに分かりやすく解説しています。
7.1 オーディオエクスポート画面を開く
場所:「ファイル」>「エクスポート」>「オーディオ」
メニューバーにある「ファイル」>「エクスポート」>「オーディオ」をクリックしてオーディオエクスポート画面を表示させます。
7.2 書き出し(WAVE形式 .wav)でエクスポート
ウィンドウ左上にあるプリセットの「Entire Mix」を選択します。このプリセットを使用すると『Wave形式(WAV)・サンプリングレート44.1KHz・ビット深度は24bi』の高解像度オーディオファイルが生成されます(保存先のデフォルト設定は「プロジェクトのフォルダ\"Audio Export"」)
7.3 書き出し(MP3形式 .mp3)でエクスポート
WAVE形式でエクスポートする場合と同様に、プリセット内の「Entire Mix - MP3」を選択するとMP3形式でファイルが保存されます。また、エクスポート時に表示される「MP3エクスポートオプション」画面で詳細な設定ができます。
よくある質問(FAQ)
Q. 新規プロジェクト作成時に、テンプレートは必ずBasic.cwtを使うわないといけませんか?
A:より複雑なプロジェクトを組む場合、必要に応じて他のテンプレートを選択しても問題ありません。
Basic.cwtはCakewalkの標準セットアップでシンプルな構成が用意されているため、DTM初心者にとって扱いやすいテンプレートです。使わないトラックやバスを削除してシンプルに作業を始められるのが利点です。
Q. 曲のBPMが分からないときはどうすればいいですか?
A:CakewalkにはAudioSnap機能があり、波形の解析から「平均テンポ」を割り出せます。
カラオケトラックを選択してAudioSnapをオンにすると、パレットに推定値が表示されるので、それをプロジェクトのテンポ欄に入力してみましょう。後半で再生しながらズレがないかチェックし、必要に応じて微調整すると正しいBPMに近づきます。
詳細は当記事で解説している『3.1 曲のBPMを探る』を参照してください。
Q. 複数のボーカルトラックをまとめるためのバスは本当に必要ですか?
A:ボーカルバスを作ると、複数のボーカルトラックを一括管理できます。
音量やエフェクトをバス単位で調整できるため、統一感のあるミックスが簡単に得られます。特にAメロ・Bメロ・サビなどでトラックを分けている場合、まとめて処理ができると作業効率が格段に上がります。
Q. パッチポイントとバスって何が違うのでしょうか?
A:パッチポイントは「トラックエリアで自由に配置できる音声の経路のようなもの」でバスと似ていますが、より柔軟にオーディオ信号をルーティングできる点が特徴です。
たとえば「録音データの前処理(ノイズ除去等)を行うトラック → パッチポイント → FXトラック → バス」といったように、処理段階を分けてエフェクトを適用したいときに便利です。
Q. ノーマライズはいつしますか? 音割れの心配はないですか?
A:当記事の紹介では頭出し(位置合わせ)より少し前にノーマライズを実行しています。ノーマライズは0dB手前まで上げるだけで歪ませるわけではないので、そのままでは音割れはしません。
頭出しより少し前にしている理由は録音音声が小さい場合に波形を見やすくするためです。音割れの心配はありませんが、後にエフェクトをかける際にレベルがオーバーしないよう、エフェクト後の音量管理は必須です。
Q. ボーカルのノイズ除去でProChannelのEQを使う理由は何ですか?
A:低域のノイズ(風切り音やマイク振動など)はボーカルの明瞭さを損ねる原因になります。
耳にはあまり聞こえなくてもミックス時の濁りやコンプレッサーの誤作動に繋がりがちです。ハイパスフィルタで不要な低域をスッキリ落とすと後段のエフェクトが適切に働きやすくなるため、実質的にノイズ除去の効果が得られます。
Q. Gater(ゲート)でブレスが消えてしいます。どう対処すればいいですか?
A:まずはゲインオートメーションなどで必要なブレスを音量アップしておき、ゲートのスレッショルドを下げましょう。あるいは無音部分だけを波形カットするなど、手動で処理する方法も有効です。
ゲートは一定の音量以下をカットしてしまうので、ブレスも小さい音量と認識されれば消えやすいです。
Q. Cakewalk標準でボーカル専用のノイズ抑制プラグインはありますか?
A:Cakewalk by BandLabには、残念ながら専用のノイズリダクション(波形解析型)は標準搭載されていません。
記事でも紹介していますがフリープラグインの「Bertom - Denoiser」などを導入するのが1つの手です。ゲートやEQでは処理しきれない特定の周波数帯ノイズを抑えられるため、ボーカルの質感を保ちつつノイズを軽減できます。
Q. ProChannelプリセットとVX-64 Vocal Strip、どちらを使えばいいでしょうか?
A:すぐに形にしたいならProChannelプリセット、より細かくボーカル特有の処理を学びたいならVX-64というイメージです。
ProChannelプリセットは即戦力的ですが、VX-64にはDeEsserやDoublingなどボーカル専用モジュールがまとまっている利点があります。慣れてきたらどちらも試して、自分の好みに合う方や部分的に組み合わせるのもおすすめです。
Q. VX-64 Vocal StripがCakewalk上のメニューに出てきません
A:VX-64はCakewalk by BandLabで非表示扱いになっている場合があります。
メニューの「ユーティリティ」>「Cakewalk Plug-in Manager」で「無効のみ」を選び、そこから「VX-64 Vocal Strip」を有効化します。
詳細は当記事で解説している『5.2 VX-64 Vocal Stripを使う』を参照してください。
Q. マスターバスにエフェクトをかけるタイミングが分かりません
A:途中で挿しても動作自体は問題ありませんが、Masterにリミッターがかかった状態だと、各トラックの音量バランスが正しく把握しにくい可能性があります。
まずは各トラック・バスで大きな歪みが起こらないように調整し、最終段でMasterにリミッターをかけるのが定番の流れです。
Q. Boost11をかけると音がペタッと潰れてしまいます。対策はありませんか?
A:複数回に分けて少しずつリミットするのがポイントです。
Boost11を一度に強くかけすぎると不自然に潰れたサウンドになりがちです。各Boost11で-1dB程度まで抑えてから、最終段で-0.1dBを設定するといった段階的な使い方で違和感を減らせます。
詳細は当記事で解説している『6.2 Masterバスの処理』を参照してください。
Q. エクスポート時にMP3のビットレートはどれくらいが良いですか?
A:楽曲として配信や提出を想定するなら「192kbps~320kbpsあたりが一般的」です。
音質の劣化を最小限にしたいなら320kbpsを推奨します。ただしファイルサイズが大きくなるため、用途に応じて決めましょう。
配信用やSNS投稿などの場面でも192kbps以上であれば違和感なく楽しめる場合が多いです。
Q. 書き出したファイルを再生すると音量が小さく感じるのはなぜですか?
A:DAW内部のモニター音量と実際の書き出し音量に差がある可能性があります。
たとえば、オーディオインターフェースのヘッドフォン出力レベルが高い場合、実際より大きく聞こえていることがあります。
「Masterバス出力が0dBを超えないか」「リミッターの設定は適切か」「インターフェースのモニター音量を過剰に上げていないか」を再チェックすると良いでしょう。
Q. Cakewalk初心者がボーカルミキシングで失敗しやすいポイントは?
A: 以下の5点を意識すると完成度が大きく変わるはずです。
- BPM設定をしないまま編集…後で修正が大変なことになる
- トラックやバスを整理せず作業…どこに音が流れているか分からなくなる
- ノイズ除去のかけすぎ…ボーカル本来のニュアンスも消してしまう
- リミッターを一気に強くかけすぎ…音が潰れてしまう
- 最終書き出し音量の管理不足…エクスポート後に音が極端に大きい・小さい
関連記事まとめ
Cakewalk by BandLabの使い方